経理担当が退職した。
請求書の送付先はどこか、給与計算は何を使っていたか、税理士への資料は何を渡せばいいか——退職の知らせを受けた瞬間から、社長の頭はこうした「穴埋め」で埋め尽くされます。
しかしここで多くの会社が直面する、より深刻な問題があります。
業務マニュアルがない。引き継ぎ資料がない。パスワードも、取引先との慣習も、月次の締め作業の手順も、すべてその人の頭の中にしかなかった——。
これが属人化の本当の弊害です。退職後に慌てて棚卸しをしようとしても、肝心の情報がどこにもありません。
なぜ属人化は生まれるのか
属人化は、誰かの悪意や怠慢で生まれるわけではありません。
「この人に頼めば安心」という経営者の信頼と、「自分がやらなければ」という担当者の責任感が積み重なった結果です。気づいた時には、業務が仕組みではなく「人」に紐づいた状態になっています。
業務フローの設計まで踏み込んでいる顧問税理士・社労士がいれば、こうした状態は防ぎやすくなります。しかし実態として、多くの士業は税務・労務の法令対応が主な役割であり、クライアントの業務フロー設計まで関与しているケースは多くありません。
結果として、経理の仕組みづくりは後回しにされ、属人化が静かに進行します。
退職後に、社長がすべき5つの行動

属人化が進んだ状態での退職は、確かに痛手です。しかし同時に、これまでの経理をゼロベースで見直せる機会でもあります。「元に戻す」のではなく「あるべき姿に作り直す」視点で、以下の5つの行動を取ってください。
引き継ぎ資料がなくても、手がかりは残っています。会計ソフトのデータ、フォルダの構成、メールの履歴、請求書のファイル——これらを手がかりに「何をやっていたか」を逆算して洗い出します。完璧な棚卸しは難しくても、まず全体像の把握を優先してください。
把握できた業務を、残す・見直す・やめるの3つに仕分けします。長年続いてきた業務には、誰も使っていない管理表や、二重入力になっている作業が混在していることが多いものです。引き継ぎのタイミングは、こうした不要な業務を廃棄する絶好の機会です。
業務の見直しと並行して、直近で対応が必要な締め処理だけは先に手を打ちます。給与計算の締め日、請求書の発行期限、税理士への月次資料の提出期限——これらは待ってくれません。短期的な対処と中長期的な設計を、並行して進めることが重要です。
「この業務は退職した担当者しか知らない」という箇所を明確にした上で、人に依存しない仕組みへの置き換えを検討します。パスワード管理、取引先との慣習、手書きのメモにしか残っていないルール——これらを放置したまま次の担当者に引き渡すと、同じ問題が繰り返されます。
ここが最も重要なステップです。「今の業務をどう引き継ぐか」ではなく、「経理がどうあるべきか」から設計を始めてください。経営者の本来の仕事は、経理を整えることではありません。整った経理データをもとに、経営判断をすることです。取引データが適切に集約され、リアルタイムで会計データに変換され、経営者がいつでも自社の数字を把握できる状態——それがバックオフィスのあるべき姿です。この設計から始めることで、次の担当者が来ても崩れない経理の仕組みが生まれます。
「元に戻す」ではなく「作り直す」
経理担当の退職は痛手です。しかし「早く元に戻す」という発想で動くと、属人化した業務フローがそのまま温存され、次の退職でまた同じことが起きます。
フロントの事業とバックオフィスの両輪が揃ってこそ、会社は安定して成長できます。退職というタイミングを、バックオフィスを本来あるべき姿に設計し直すきっかけにしてください。
経理の自動化・リアルタイム化は、業務設計から始まります。顧問税理士はそのままで、設計から運用まで一貫サポート。まずはご相談ください。
